2017/05/26

未完の作品を見てみよう

Bartholomeus van der Helst, Mary Stuart, Princess of Orange, as Widow of William II(part), Rijksmuseum
Bartholomeus van der Helst,Mary Stuart Princess of Orange as Widow of William II(part), 
Rijksmuseum


Ciao!
冒頭の絵は何でしょう?そう。みかんだね。ということで、今日のテーマは未完のまま終わってしまった絵画作品だよ。

さて、未完のまま連載を打ち切ってしまう漫画は、日本のシビアな漫画界ではよく目にする光景だけど、

車田正美先生,  男坂 最終話より
車田正美先生,  男坂 最終話より
実は、西洋画にも未完のまま展示されている作品が結構あるんだよ。



1. ティツィアーノ アクタイオンの死

Titian, The Death of Actaeon, National Gallery  London
Titian, The Death of Actaeon, National Gallery  London
この絵は、ティツィアーノさん晩年の力作で、歴史画シリーズを描いていたころのものなんだけど、どこが未完成かわかるかな?
ほら、弓に弦が張られてないでしょ?

Titian, The Death of Actaeon(part), National Gallery  London

それから、右側の猟犬たちもX線で見ると、数や構成が何度も変えられた痕跡があって、現在の姿が最終的に決定されたものかどうかもよくわからない。

ティツィアーノさんはこの絵で、物語の一場面をきっちりと描くことよりも、動きのある描写、造形と色彩の調和を意識してたんだと思う。でもそういう描き方は、ルネサンス期には一般的ではなかったから、かなり試行錯誤を重ねていたんじゃないかな?

その結果、この絵は10年以上も描いては消し、消しては描いての永遠のループにはまってしまったんだ。そして、結局最後まで彼が満足いくレベルに仕上がることなく、彼が亡くなった時もアトリエに残ったままになっていたんだって。

ダヴィンチさんのモナリザもそうだけど、新しい表現を自分の納得いくレベルで仕上げるというのは、技術もあって審美眼も冴えている巨匠になればなるほど難しいのかもしれないね。


2.パルミジャニーノ 首の長い聖母

さて、次はパルミジャニーノさんの「首の長い聖母」。よく似た名前のチーズでパルミジャーノっていうのがあるけど、パルミジャーノさんの名前にはが入るから注意してね!
ペルジャニーノ、首の長い聖母、ウフィツィ
Parmigianino, Madonna and Child with Angels, known as the "Madonna with the Long Neck", Uffizi
この絵はタイトルの通り、聖母の首が長いよね。これは、絵全体として縦のラインを強調するためで、ちょっと不自然に見えるかもしれないけど、マニエリスムという様式なんだ。左端の天使の脚が引き伸ばされていたり、右に円柱が並んでいたりするのも縦長の構図を安定させるためなんだ。

円柱のそばに立つ男性も縦のラインの構図に組み込まれているんだけど、その足元をよく見てみて。

ペルジャニーノ、首の長い聖母、ウフィツィ
何が見えるかな?

別の人の脚が描きかけのままだね。さらに男性の後ろの円柱の側面も、よく見たら仕上がっていないよね。

こんな感じで、明らかに未完のままの作品なんだけど、この絵はティツィアーノさんの作品とは違って売りに出されたんだ。その後なんやかんやあってナポレオンの手に渡り、最終的にはまたイタリアに戻ってきたという、歴史に翻弄された絵なんだよ。

マニエリスムについては、がっつり語りたいんだけど、今回はあくまで未完作品の回だから、また別の機会にね。では、次行ってみよう!

3.ヴェロッキオ工房 トビアスと天使

ヴェロッキオ工房、トビアスと天使、ナショナルミュージアムロンドン
Workshop of Andrea del Verrocchio, Tobias and the angel, National Gallery London
この作品はフィレンツェの超有名工房だったヴェロッキオさんの工房の作品なんだ。ちなみに、この工房では僕の師匠であるペルジーノ先生も修行していたことがあるんだよ。

絵の内容は、トビアスという少年が、目の悪いお父さんの代わりに旅に出るんだけど、お父さんが息子の旅の安全を神様に祈ると、天から天使ラファエロが見守り役として遣わされ、さらにはお父さんの目を治す薬(ぶら下げている魚の肝)まで手に入れて、無事に家に帰れました、めでたしめでたしというお話なんだ。

この絵は一般的には未完作とはされてないんだけど、僕的には一か所だけ気に入らない点がある。それがこの犬!

ヴェロッキオ工房、トビアスと天使、ナショナルミュージアムロンドン
トビアス君の旅のお供をするわんこ
よく見ると、透けてるでしょ?口のあたりとか、先に描いてあった地面と草の境界線がうっすらと見えちゃってる。

高名なヴェロッキオさんの作品とは言え、あくまで「工房作」だから、中には技術的に未熟な弟子もいたでしょうよ。でもね、このクルクルでフワゆるなカーリーヘアの描き方は、明らかに当時この工房で修行中だったダヴィンチさんの手によるものなの!

レオナルドダヴィンチ初期
同じころのダヴィンチさんのフワゆるカーリーヘア
Workshop of Andrea del Verrocchio, The Baptism of Christ, Uffizi
僕はね、どんな画家にも敬意を払ってるから他の画家を批判するようなことはしないよ。でも、ダヴィンチさんとミケランジェロさんは別!だってこの二人は巨匠すぎて、僕がつっ込まないと誰もつっ込めないんだもん。

だから、あえて声を大にして言わせてもらうよ。「ダヴィンチさん!この犬、下地が透けてる!やり直し!」

叫んですっきりしたところで、次行ってみよう!


4.トマス・ゲインズバラ アンドルーズ夫妻

トマス ゲインズバラ、アンドリューズ夫妻の肖像
Thomas Gainsborough, Mr and Mrs Andrews, National Gallery London
誰もいない農場で、着飾った若い夫婦が無表情でたたずむシュールな雰囲気の絵だけどシュルレアリスムではないんだよ。

これは18世紀半ばの結婚肖像画で、奥の農地は結婚によって二人が持つことになった広大な土地なんだ。その面積は3000エーカーとも言われていて、なんと東京ドーム260個分。僕、まだ東京ドームに行ったことないんだけども。

さて、この絵の未完成部分は奥さんの膝の上。

トマス ゲインズバラ、アンドリューズ夫妻の肖像

旦那さんが銃を持っていることから、膝の上には仕留めた獲物であるキジ(畑を荒らす害獣)を描く予定だったとか、子供が生まれたら描くつもりだったとか、いろんな説がささやかれているよ。

当時は、子どもたちが両親を囲む形で描かれた家族の肖像画っていうのが結構一般的だったんだ。もちろん、お金持ちの間でだけね。

デビッド アラン、ハンターブレア―家の肖像
David Allan, The Hunter Blair Family, National Gallery Scotland

上の絵もそう。僕的には左端の難しい年ごろの男の子がなんか好きだな。こんな時、リヴァイ兵長だったら・・・

Hajime Isoyama, Attack on titan
諌山創先生, 進撃の巨人 22巻より

っていうよね。きっと。さて、僕の進撃好きは置いておくとして・・・最初の夫婦は9人の子供に恵まれているんだ。この不機嫌そうな顔からは想像もつかないけど、やることはやってたみたい。


トマス ゲインズバラ、アンドリューズ夫妻の肖像(部分)
2人してツンデレだったのかもしれない

にもかかわらず、膝の上の空白は一向に埋められることなく、残されたまま今に至る。この夫婦が何を思っていたのかは永遠に謎のままさ。

さてと、今回のお話はここまで。美術館でじっくりと絵を鑑賞する機会があったら、絵の端々までしっかりと見てみて。みんなの周りにも、未完成の絵が意外とあるかも。


ちなみに、僕が今一番気になっている未完作はハンタ―ハンター。休載のまま終わってしまうのか、はたまた冨樫先生が奇跡の復活を果たすのか。末永く見守っていこうと思うよ。

それじゃあまたね。Ciao!



武井宏之先生, シャーマンキング最終話より(部分)

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