覚えてないわよ。死ぬまでずっと塗って直してってしてたんだから。 | |||
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最近の調査によると、20回以上ってことになってるよ。 ずいぶんとあの絵に時間かけてたんだね。 |
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なんなの、最近の調査って。どうして私すら忘れてることがわかるのよ? | ||
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400年たって技術が進んだってことだね。 飽きっぽいダヴィンチさんが20回もよくやったよね。 |
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別にアタシは飽きっぽくなんてないわよ。 ただ、やりたいことがありすぎて、一つのことに時間を割けなかっただけ。 |
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そうなの?その割にはダヴィンチさんって寡作じゃない? フランスに渡って兵器の発明家になった後も、実物の完成までこぎ着けた作品は無いって聞くし。 |
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フランスの人はおおらかで、イタリア人みたいに納期納期ってせっつかなかったのよ!だからお言葉に甘えてたの! | ||
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本当かな?絶対周りの人は給料泥棒って思ってたと思うよ。 | ||
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うるさいわね。誰にでも自分のペースってものがあるのよ。 それにしてもあんた、変わったわねぇ。昔は純粋で素直で可愛げがあったのに。今は話す言葉ひとつひとつに棘を感じるわ。 |
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まあまあ、そんなに怒らないでよ。 昔話といえば、ダヴィンチさんはこの絵覚えてる? |
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あら懐かしい。もちろんよ。 これはアタシがまだヴェロッキオ師匠のところにいた頃に、他の弟子たちと一緒に描いたの。構図や下絵は師匠だけど、あとの部分はアタシたち弟子が分担してやったのよ。 |
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ほらみて、上のハトはねぇ、まだ工房に入って間もない子が描いたから、垂直落下する剥製みたいに動きがなくてぎこちないでしょ? | ||
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ダヴィンチさんはどこを描いたか覚えてる? | ||
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アタシは先輩格だったから、広い範囲を任されたのよ。 | ||
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天使の横顔とか、キリスト様とか、足元の水面や背景も。 | ||
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なるほど、ここで面白い話があるんだけどね、 最近の調査で、キリスト様のところに指の跡が見つかったんだって。 ダヴィンチさん、絵の具をのばした後、ちゃんと指の跡消した? |
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ちょっと、ちょっと。人聞きの悪いこと言わないでよ! あんたがどう思ってるかは知らないけどね、アタシはこれでも超がつく完璧主義者なのよ。指の跡なんて残すわけないじゃない。そんなこと言った人連れてきなさいよ。 |
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ははは、ちょっとからかただけだよ。指の跡は見つかったけど、目視ではわからない程度のものだよ。最近の調査はすごいんだって。 | ||
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はぁ、とりあえずホッとしたわ。 | ||
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ちなみにこの話はウフィツィ美術館のオーディオガイドで流れてたよ。 | ||
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どうしてウフィツィはそんな重箱の隅をつつくようなことをしてるのよ。 あいつら、ルネサンス芸術の殿堂だなんだって言ってお客を集めてるんだから、もっとアタシたちの敬意を払いなさいよ。 |
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ははは、そうだね。でも、その調査のおかげで、修復がはかどって、美しい絵をいつまでも綺麗に保ててるって側面もあると思わない? | ||
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はは~ん。あんた、また最近の調査の成果ってやつを持ち出して、アタシの作品に難癖つけようってのね。 | ||
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いやいや、ダヴィンチさん、勘がいいね。 たとえば、最後の晩餐なんかは、調査の成果が修復と保護に生かされてる典型だと思うんだ。 |
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読めてきたわよ。アタシがこの絵をテンペラで描いたから、すぐに壁から剥がれ落ちてきて、後世の人が修復するのが大変だったっていう話をするつもりでしょう? | ||
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そこまでわかっててどうして、あんなことしちゃったのさ? 壁画はフラスコで描くっていうのは、古代ローマ時代からの伝統だったじゃない。 |
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だからこそ、アタシはテンペラを選んだのよ。前にも言ったけど、 アタシはボーダーがあれば踏み越えたい、タブーがあれば挑みたい性分なのよ。だから、昔からの型通りの描き方をぶっ潰したかったの。アタシが歴史を変えてやるって意気込みだったんだから。 |
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だからって、湿気の多い食堂にテンペラで絵を描いたらすぐに崩れてくるのはわかってたことでしょ?壁にフレスコで描くのは、先人の知恵の結晶で、ポンペイの壁画だって、フレスコ画だったからこそ、1500年以上土に埋まっていても色彩を保っていられたんだから。 |
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はいはい。わかりました。どうせ私は先人の知恵に挑んで敗れたルーザーよ。 どう?これであんたも満足でしょ? |
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そうやさぐれないでよ。ダヴィンチさんのあくなき追求心は、ここでは裏目に出ちゃったけど、モナリザでは後世に残る金字塔を打ち立てられたんだから。 | ||
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あんたって、叱ったりなだめたり忙しい人ね。 | ||
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僕の工房にはいつもたくさんの弟子がいて、その子たちを叱ってなだめて育ててたから、職業病かもね。 そういえば、ダヴィンチさんのところに1人厄介な弟子がいたよね? |
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手癖は悪いけど、根はいい子なのよ、あの子は。最後にモナリザの面倒を見てくれたのもあの子だったんだから。 | ||
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売り払ったってだけだよね? まあ、話を戻すとね、最後の晩餐は一時期ボロッボロに朽ちてたんだけど、“最近”の調査と修復によって元の形状と色彩を取り戻して、今はテーブルの上の料理までしっかり見えるようになったんだよ。 |
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しかも、作品を守るために厳重な二重扉で湿度と温度を管理してるんでしょ? | ||
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見学も完全予約制で、人数も制限されてるから、予約が取れないんだって!ダヴィンチさんが厄介な描き方をしたからみんな困ってるんだよ。 | ||
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わかったわよ。まさか自分の絵が後世でこんなにありがたがられるとは思ってもみなかったわ。でもそういう意味では、アタシの絵を守ってくれてる“最近”の調査と修復には感謝しないとね。 | ||
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やっとわかってくれたみたいだね。 | ||
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あれ?でも大規模な調査・修復が行われたのはもう15年以上前の事でしょ?だからこれが「最近」といえるかどうかは・・・ | ||
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いやだなー、天界で長く暮らしてると15年は一瞬だよ。だから30歳年上のダヴィンチさんは同い年みたいなもんさ。 | ||
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あんた、アタシのことそんな風に思ってたの!? | ||
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さて、ダヴィンチさんを招いての美術談義も残すところあと1回。 | ||
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3回1セットだったって、今初めて知ったんだけど! | ||
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次回はダヴィンチさんの飽きっぽさに焦点を当てていくよ。 | ||
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その焦点の当て方はどうなの?もっといい点に焦点を当ててよ! | ||
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次回も楽しみにしていてね。それじゃあ。A presto! |
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